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梅の咲く頃に味わう、いばらきの美味


大きいものは20kgにもなるアンコウ。美味しいのは10kg前後とか。さばいてそのまま鍋に入れられる状態のセットで買うのが普通
寒波の訪れで、ついつい家にこもりがちな季節ですが、この時期こそ味わいたい旬の海の幸があります。それはあんこう。ちょっと着込んで、本場・茨城へ。そろそろ梅の便りが届き始める季節、名所・水戸偕楽園の梅に早春の香りを感じた夜は、濃厚なあんこう鍋を味わってみませんか。
西のふぐ、東のあんこうと称された高級魚
あんこうは、古くから高級食材として親しまれた魚です。上から押しつぶされたような姿と巨大な口は、海底の砂にもぐってほかの魚を待ち伏せるため。頭上にある突起には小さな皮がついていて、これを動かすことでエサに見せかけ、近寄ってきた魚を丸呑みにする習性から、英語ではangler-fish(釣り師魚)と呼ばれています。大きなものでは1m、10kg以上になります。
姿こそちょっとグロテスクですが、その希少価値と相まって、江戸時代には五大珍味の一つとして知られていました。淡泊な肉質はもちろん、あんこうは骨以外ほとんど捨てるところがない魚。皮、エラ、ヌノといわれる卵巣、胃袋、ヒレ、そしてあん肝として知られる肝臓は、肉と合わせて「あんこうの七つ道具」と呼ばれています。栄養も豊富で、成分としては肌によいとされるコラーゲンを多く含むほか、ビタミンAやビタミンB1、ビタミンEも豊かに含んでいます。冬から春先が旬となっているのは、こういったビタミン類が特に豊富なあん肝が最も大きくなる季節だからです。
あんこうは日本近海に広く生息していますが、中でも本場といわれるのが、茨城県鹿島灘です。もともとこの海域は親潮と黒潮がぶつかり合い、そこに発生するプランクトンを求めて魚が集まる世界有数の漁場。地元では底引き網によってあんこうが数多く漁獲され、「常磐路のあんこう」として知られてきました。西のふぐに対して東のあんこうと並び称されるほど。現在でも茨城県の沿岸にはあんこう料理を売り物にした食事処や宿泊施設が数多く存在しています。
さばく姿も豪快! あんこうの吊るし切り

吊して水を入れられたアンコウ。この状態で吊るし切りにされる

切り分けられたアンコウの七つ道具。ふつうの魚では捨てられるエラも食べられる。パックになっているものを選ぶなら、あまり水が出ておらず、身が淡いピンク色で肝の黄色みが強いものを
あんこうといえば、「吊るし切り」。大きいものは1mを超え、体にはぬめりがあるあんこうは、普通のまな板の上ではさばきにくいため、考案された伝統の技法です。アンコウの下あごにカギを引っかけて吊るし、バケツ一杯ほどの水を注ぎ込みます。そして回転させながらひれを切り取り、口のまわりから皮を剥ぎ取り、腹を割いて内臓を取り出し、身を切り取って三枚におろします。見どころは皮を一気にはぐ瞬間と、胃袋の中身。大食漢のあんこうだけに、胃袋から食べた魚が大量に出てくることもあって驚かされます。
この吊るし切り、パフォーマンスとしても人気が高く、イベントなどで実演されることがあるほか、宿泊客のためにシーズン中毎日実演している宿もあるほどです。
それぞれの食感が楽しいあんこう鍋

白菜や椎茸、にんじんなどを入れたあんこう鍋
吊るし切りによって得られた「あんこうの七つ道具」を丸ごと味わえるのがあんこう鍋。七つ道具をメインに、野菜とスープを合わせて煮込んだ鍋は、あっさりとした風味の中にさまざまな食感が味わえます。白身で淡泊な肉、プリプリとした皮、コリッとした歯ごたえのヒレ、そして海のフォアグラとも呼ばれるあん肝。味付けは味噌仕立て、醤油仕立ての2種類がありますが、いずれもスープに溶け込んだあん肝のコクが決め手です。漁協直売所や地元スーパーなどでは、野菜を入れるだけで家庭であんこう鍋が楽しめるセットなども販売されているので、お土産にして楽しむこともできるでしょう。


肝が溶け込んで汁が濁ることからその名がある「どぶ汁」。風味の決め手として日本酒も使われている
また、より野趣を味わうなら、漁師料理の「どぶ汁」を。もともとは船の上で真水を節約するために考え出されたものとされています。手順としてはまず鍋であん肝を乾煎りしたのち、ほぼあんこうと野菜から出た水分だけで煮込み、味噌で味付けしたもの。これぞ茨城ならではの郷土料理といえるでしょう。なんといってもふんだんに使ったあん肝の味が濃厚です。水を使わない分、焦げやすく手間がかかることもあって食べられるお店は限られますが、チャンスがあればぜひ。
このほか、水戸や大洗周辺で親しまれているのがあんこうの「供酢」。これは湯通ししたあんこうを、あん肝を練り込んだ酢味噌でいただく郷土料理です。夕食とは別に、ちょっと一杯の酒の肴にも最高です。
いばらきで春の香りも、冬の美しさも満喫!


日本有数の梅の名所、偕楽園。江戸時代に水戸藩第九代藩主の徳川斉昭の命で造園されている

凍りついた袋田の滝。別名の「四度の滝」は、滝の流れが四段に落下するから、とも、西行法師が「四季に一度ずつ決め見なければ真の風趣は味わえない」と言ったからとも伝えられている。氷瀑の見ごろは1月末から2月
あんこうの旬の最後を飾る2月〜3月は、そのまま梅の季節。日本三名園の一つである水戸偕楽園では約100品種、3000本の梅が次々に見ごろを迎えて咲き競い、2月16日から3月31日まで「水戸の梅まつり」が開催されます。東京から茨城は日帰りも可能な距離ですが、ここは泊まりでじっくりと。2月のうちなら、日本三名瀑に数えられている袋田の滝へ足を伸ばして、寒波で凍結が進んでいる滝の姿を眺めるのも一興でしょう。古くから冷え性によいとされるあんこう鍋で、冬と春、季節を巡る一日の締めくくりをどうぞ。
観光いばらき
偕楽園所在地 茨城県水戸市見川1-1251
電話番号 029-244-5454
アクセス 常磐道水戸ICより約20分、JR常磐線水戸駅より偕楽園行きバス約20分
料金 入園無料
開館時間 6時-19時(10月1日〜2月19日は〜18時)
※無休
袋田の滝所在地 茨城県久慈郡大子町袋田
電話番号 0295-72-0285(大子町観光協会)
アクセス 常磐道那珂ICより約50分、JR水郡線袋田駅よりバス約10分
料金 観瀑施設(袋田の滝トンネル)利用料300円
利用時間 9時-17時(5〜10月は8時-18時)
※無休