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上高地に癒やされる 共働き夫婦の週末1泊2日旅

上高地に癒やされる 共働き夫婦の週末1泊2日旅

あるがままの美しい大自然を満喫できる山岳リゾート、上高地。透き通った美しい川、山頂に残る白い雪、水面に映り込む緑……日常の喧騒から離れた心安らぐ場所を舞台に、ゆこたびが旅のストーリーを考えました。

今回お届けするのは、共働き夫婦の1泊2日のショートトリップ。結婚して5年目、ともに30代後半、都内在住、子なし。夫はスポーツ雑誌の編集長、妻はIT企業の総務部で働く。珍しくふたりの休みが重なった今回、関東近郊へ旅することに。「癒やしが欲しい!」という理由で選んだ上高地へ。

バスで向かう初めての上高地

週末も稼働することが多い多忙な夫が、珍しく休みを取れることになり、今週末は夫婦ふたりで久しぶりに旅行へ。初めて行く上高地を今回の旅先に選んだのは、新宿からバスに乗りっぱなしで到着するアクセスの良さと、会社の上司から上高地の魅力を聞いたから。

ちなみにバスを選んだ理由は、上高地では自然環境保護と交通安全の目的で、クルマの乗入れを通年規制しているから。もしクルマで行きたいなら、沢渡(さわんど)駐車場か平湯のあかんだな駐車場に停めて、そこからはバスかタクシーで行く必要がある。

夫は「宿とか食事は君の好きなところにして。僕は上高地をふたりでたっぷり歩き回れたら満足。きれいな空気とか景色に癒やされたいよね」と言っていた。私も同感。上司のおすすめや自分なりに調べた情報で、夫が喜んでくれそうなプランを立ててみた。

上高地の“象徴”でひと休み「河童橋」

バスタ新宿を朝7時15分に発車するバスに乗り込むと、12時過ぎには上高地バスターミナルに到着する。早起きしたからバスの中でふたりとも熟睡。バスを降りるとひんやりと澄んだ空気が心地よい。

その足でバスターミナル隣にある売店「上高地アルピコショップ」へ向かう。お弁当「河童のひるめし」を購入し、歩いて6分ほどのところにある河童橋へ。

上高地のシンボルとして人気の河童橋。夫と「上高地といえばこの構図だよね。橋の後ろに穂高連峰! 旅メディアでよく見かける」と盛り上がり、写真撮影を楽しんだ。

揺れを堪能しながら橋を渡りきって、清らかな梓川を眺めながら、お弁当をいただくことにする。くるみ入りのおにぎりが楽しい食感で美味しい。

ウイークデーのランチは同僚と連れ立ってランチに行くこともあるけれど、忙しい日はコンビニで買ってきたごはんをデスクでさっと食べる。実際はそんな日が大半だ。

ときに気分を変えたくて、お弁当を買って外の公園やベンチで食べることもある。開放感にあふれていて、屋外ランチっていいなと思う。

でも、ここ上高地で青空の下、お弁当を頬張るのとは比べ物にならない。梓川の流れるやわらかな音を聞きながら、視覚だけではなく聴覚までも優しく刺激されるのを感じて、幸せな気持ちになる。

水面に空の青が溶け込んだ「岳沢湿原」

お腹を満たした後は、梓川沿いの小道を右方向に進んでいく(梓川右岸コース)。梓川を右手に見ながら明神池方面へ15分ほど歩いたところにある岳沢(だけさわ)湿原が1つ目の目的地だ。木でつくられた遊歩道を進む間、夫とのおしゃべりが止まらない。

「岳沢湿原って小さな湿原だけど、すごくきれいで有名なスポットだよね?」と夫。画面越しに何度となく写真を見つめてきた岳沢湿原は、「うわ~」とため息をつくほど美しい。

透き通った清らかな湧水、太陽の光の下でキラキラ輝く水面、そこへ青い空が溶け込んでいるのだ。湿原の上に設けられたウッドデッキから遠くを眺めると、六百山が雄大な姿を見せる。

サワラやチョウセンゴヨウをはじめとする豊かな原生林に囲まれた静謐な場所。夫と私はそこへしばし佇んで、「いいねえ」「最高の場所」などと言い合う。しばらくその場を離れたくないくらい魅了されてしまった。

透明度の高い美しいふたつの池「明神池」

「ねえ、次のスポットもびっくりすると思うよ」。しゃがんでぼーっとしていた夫は腰を上げ、目を輝かせる。「行こ行こ!」

岳沢湿原からは45分ほど歩くことになる。途中、河原にきれいに積まれた石を発見して思わずパシャリ。

早歩きが好きな私たちは、なだらかな道をずんずんと歩き続ける。

それでも汗ばむことなく、心地よい状態で過ごせるのは、上高地の特殊な気候が大きい。平均標高が1500mだから、東京と比べると気温は10~15度ほど低い。6月初旬のこの日は日中だと15〜16度でベストシーズンともいえる。

一之池と二之池の大小ふたつの池から成る明神(みょうじん)池は、穂髙神社奥宮の境内にある。透明度が高く見えるのは、明神岳からの伏流水が常に湧き出ている影響だという。

ここにも澄みきった空が映り込んでいる。池と池の上にそびえ立つ明神岳最南峰を入れ込んだ写真を撮る夫は、とても穏やかな表情をしていた。遠路はるばる来てよかったと思う。

上質なおもてなし「上高地ルミエスタホテル」

明神橋を渡ってから55分ほどかけて、梓川左岸コースを通って上高地バスターミナルまで戻る。途中に流れる全長約200mの清水川は、上高地の飲料水源として知られる。

原生林に覆われた六百山に降る雨が、地下水となって湧き出した清水川の水は、雨が降っても濁ることなく、とても高い透明度を誇り、すくってそのまま飲めるほどきれいだという。

預けていた荷物をバスターミナルで受け取り、20分ほど歩いたところに今回の宿、上高地ルミエスタホテルはある。

源泉かけ流しの温泉を楽しめること、絶品フレンチを楽しめることが評判の山岳リゾートホテルだ。さらに、全客室から梓川や霞沢岳、六百山の雄大な眺めを望めるのも、ルミエスタホテルを選んだ理由のひとつだ。

宿泊するツインルームは、ふたりには十分な広さ。窓際のソファから眺める景色が素晴らしい。梅雨の時期は夜8時ごろから天の川が見えるそう。

約2時間歩き回って脚が疲れていないかと夫に聞くと、「僕は太ももの内側にきている」と返事が。チェックイン時に利用したいと伝えておいた家族風呂へ行くことにする。

家族風呂は丸い湯船の「まゆみの湯」、四角い湯船の「こなしの湯」の2カ所。まゆみもこなしも木の名前だという。どちらも3階にあり、山側に面しているため、客室で過ごすときとは違った景観を味わえる。

こだわりのアメニティもうれしい。長野県北安曇郡に本社のあるカミツレ研究所が作る、国産カモミールにこだわったスキンケアブランド「華密恋(かみつれん)」のシャンプーやコンディショナー、ボディソープなどが用意されている。合成成分を一切使用していないやさしい製品だ。

「華密恋のアメニティは、展望風呂付き客室とプレミアムシアターツインルームにも置かれているんですよ」と宿の方が教えてくれた。その流れでプレミアムシアターツインルームを覗かせてもらえることに。

部屋に入り、横幅5mを超える窓のブラインドを上げると、息を呑むほどのパノラマビューが広がる。

天然のプレミアムシアターという超贅沢空間での宿泊は、結婚10周年の記念日のような、節目の時期に叶えてみたい。

さて、家族風呂に浸かって脚の疲れをとった後は、1階のロビーラウンジへ。用意されているフリードリンクのコーヒーやお茶を飲みながら、夫と旅の感想を話しているうちに、早くもディナーの時間になった。しっかり歩いたからお腹もぺこぺこ。

レストラン「La Riviere」でのディナーは、伝統的な調理技法に則った本格フレンチに、地元や近隣の食材を取り入れた“上高地フレンチ”だ。アミューズからメイン、デザート、コーヒーまで全7品のフルコース。

3品目のコンソメスープは、国産牛すね肉を72時間にも渡って煮込んだ、風味豊かな一品。このスペシャルなスープを楽しみにリピートするお客さんも少なくないそう。その気持ちはわかる……と一口飲んだ瞬間に夫と顔を見合わせてにんまりした。

5品目のローストビーフはおかわり可能(1回)。お腹は徐々に満たされていたものの、低温でじっくり焼き上げた“ロゼ”色の特選和牛は甘くて柔らかくて、とにかく魅力にあふれていた。おかわりしない選択肢なんてないと感じ、夫も私も2皿目をいただくことに。添えられた安曇野産山葵の食感もクセになる味わい。

ディナーは17時半からスタートしていたので、寝るにはまだ早い時間だ。ラウンジで1杯飲んでから客室へ戻ることにする。

「夫婦でこんなふうにバーでおしゃれなカクテルを飲むなんて、付き合ってた頃以来じゃない?」と私。夫も「だいぶ昔だね」と笑う。こうして1日目は終了。おやすみなさい。

早朝の散策が最高な「田代橋〜田代池〜大正池」

2日目の朝は5時起床。外はすっかり明るい。気温は6度ほどしかないため、パーカーやウインドブレーカーを着込んで外へ出る。ひんやりした空気が肌を引き締める感覚がある。

ルミエスタホテルから徒歩5分ほどの田代橋が最初のスポットだ。橋の上は梓川の清流と霞沢岳・六百山を収められる、絶好の写真ポイントともいえる。

続いて向かうのは田代池。20分ほど歩くと、原生林の中にできた湿原に、神秘的な雰囲気の田代池が広がっていた。浅い池の中には島がいくつかできていて、清らかで透明感あふれる水面には、山の緑と空の青が溶け込んでいる。穏やかな時間が流れる場所だった。

20分弱歩いて次の目的地、大正池へ。歩いている間、鳥の鳴き声がする方向を双眼鏡で眺めるのが楽しい。日頃聞き慣れない鳥のさえずりが聴覚を癒やしてくれる。

大正池に到着すると、夫が「おお!」と声をあげた。焼岳と穂高連峰、立ち枯れの木々が静かな湖面に美しく映し出され、目の前の景色自体が絵画のように見える。

1915年(大正4年)に噴火した焼岳から噴出した熔岩や泥流を、梓川が堰き止めてできたといわれる大正池。幻想的な光景に目を奪われ、しばらくここでこの景色を目に焼き付けた。

宿に戻る途中、数匹のニホンザルを目にした。ルミエスタホテルで貸してもらった双眼鏡が、ここでも大活躍だ。赤ちゃんを抱いた母親ザルの姿も。

散策後からバスの時間までホテルを満喫

冷えた身体を温めるため、大浴場へ向かう。ルミエスタホテルでは15時〜翌10時半まで、0時〜1時までの清掃時間を除き、いつでも入浴可能。好きな時間に天然温泉に浸かれるのは、極上の幸せだ。

2012年に、2倍の広さに拡大したという内湯は広々としていて、身体を十分に伸ばしてリラックスできる。

露天風呂(河童の湯)では涼やかな風を肌に感じながら、木々の緑を眺めていると心がほわんとやわらかくなる。上高地ならではの河童が女湯には1匹、男湯には2匹いる。

温泉から出たところにある、湯上り処「スパリビング」のマッサージチェアで、身体全体をほぐす。やさしくてまろやかな湯に浸かった後のマッサージは、普段以上に効いている気がする。しばらくすると夫も男湯から出てきたため、一緒に朝食会場「La Riviere」へ。

朝からしっかり歩き回ったせいか、お腹が空いているのに気づく。充実度が高いのは和食メニューだが、洋食コーナーもあって、オムレツをオーダーできるのがうれしい。

夫のお気に入りは、具だくさんの七宝汁(しっぽうじる)。にんじんや大根など、7つの「ん(運)」が付く食材でできた、身体が温まる縁起かつぎの汁物だという。

11時前にチェックアウトを済ませると、出発まで時間があるので、リバーテラス「香風音」で休憩することに。ラウンジで販売されているスイーツやコーヒーをテイクアウトし、雄大な眺望や風を楽しみながらテラスで飲食する人は多いという。

今回購入したスイーツは「河童のムース」と「焼岳シュークリーム」だ。いずれもLa Riviereに勤めるパティシエがつくっていて、「河童のムース」は緑など全4色あり、日によって提供するものが異なるそう。

※今回は撮影のため陶器を用いていますが、通常は紙皿と紙カップでの提供となります。

郷土料理・とうじそばに舌鼓「みよ田」

上高地バスターミナルを正午に発ち、新島々駅へ13時5分に到着するバスに乗り込む。車窓をダムがいくつも通り過ぎていく。その度にダム好きの夫は写真撮影に夢中だった。荘厳な大自然を前に“非日常”を味わいに来て、本当に良かったと思う。

帰路はバスではなく、松本駅から特急あずさに乗ることにしている。新島々駅から松本電鉄上高地線に乗り換えて30分、終点・松本駅に到着する。

せっかく長野に来たんだから、そば処で昼食を取って帰りたい。私の提案に夫も大賛成だった。夫がピックアップしたのは、松本パルコ1階にある「そばきり みよ田」。松本でそばの人気店「そばきり みよ田」の2号店だ。

「とうじ(投汁)そばを食べてみたいんだよね。山菜とかきのこ、野菜を煮立てた汁の中に、小分けしたそばをとうじ籠に入れて、さっと温めて食べるんだって」と、スマホで調べた情報から概要を説明していた夫を思い出す。

みよ田では「とうじそばプラン」のデラックスをオーダー。とうじそばのほか、焼き味噌、塩いか胡瓜、葉わさび漬けの先付、馬刺しに山賊焼きが入った天ぷら、そば米雑炊、セイロそば(またはかけそば)、そばの実アイスがついた信州名物が味わえる豪華なコースだ。

焼き味噌、塩いか胡瓜、葉わさび漬けは、日本酒を嗜む人にはたまらないメニューだろう。みよ田では常時20種類以上を仕入れており、県内全域の日本酒を楽しむことが出来る。

とうじそばは旧奈川村(現松本市)に伝わる郷土料理で、冷水で締めた冷たいそばを具材いっぱいの汁に、しゃぶしゃぶのようにサッと浸けていただく。つゆに浸ける時間が少ないので、そばが伸びていない。野菜類の美味しい出汁と絡んだそばは、いくらでも食べられそう。

そば米雑炊も珍しい料理のひとつ。殻を剥いて炊いたそばの実を、とうじそばの残り出汁に入れて煮立たせ、溶き卵を混ぜ合わせたもの。スーパーフードと呼ばれる栄養価の高いそばの実は、玄米のようなプチプチとした食感が特徴。米ほど胃にどっしりこないのもあって箸が止まらなかった。

セイロそばは、県内産の玄そばを独自のブレンドで自家製粉しているそう。さらに長野県のさまざまなそばを楽しんでほしいという想いから、月ごとに製粉するそばの産地を変えているんだとか。美味しいお蕎麦をいただいて、大満足でお店をあとにした。

日曜の夕方、特急あずさに乗り込んだ私たち。夫は「いい旅だったね。無理してでもときどきこういうリフレッシュしたいよ」と言った後、すやすやと小さな寝息を立てて眠ってしまった。

すれ違いが続いていて、実は夫への興味を若干失いかけていたけれど(笑)、この旅でもう一度好きになれた気がする。なんだかんだ、やっぱり気が合うし、一緒にいて楽なのは夫だ。またふたりで旅しようね。

【旅中に立ち寄ったスポット】

上高地アルピコショップ

河童橋

岳沢湿原

明神池

上高地ルミエスタホテル:https://www.yukoyuko.net/8812

田代橋

田代池

大正池

そばきり みよ田 松本パルコ店

Photo/浦田真行

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